言葉では語られなかったもの|蓮實重彦 三島賞受賞
ニコニコ生放送で三島賞の受賞記者会見の様子を見ていた。山下澄人さんが受賞しないかなという、ただのミーハー的な気持ちで見ていたら、選考員の町田康さんから蓮實重彦さんの名前が出たから、少なからず驚いた。
さらに驚いたのが、蓮實さんの記者会見での応答である。蓮實さんを映像で見るのが初めてだったから殊更驚いたのかもしれないが、なかなか見応えのあるというか、考えさせられる会見だった。
「お答えしません」
「申し上げません」
のっけから悉く質問を跳ね返すような応答に、記者の方々も面食らったのではないか。一気に会見場の空気が凍りついたような、その緊張感が画面からも伝わってきて、関係のない私も手のひらに汗をかいた。
その他にも「傍迷惑である」「馬鹿な質問はやめてほしい」といった言葉が出てきて、もっと別の応答の仕方もできたのではないかと思うし、わざとああいう風に振る舞ったとも考えられるが、受け取りようによっては大人気ないようにも見える。
蓮實さんは怒っていたのであろうか。確かにそのようにも見える。ならばそもそも賞にノミネートされた段階で断ることもできたのではないか。詳しくは知らないが、こうした文学賞はノミネートされる段階で、事前に「受賞した場合は受け入れるか」という打診があるというのを何かで聞いたか読んだことがある。
いや、そもそもそうした行儀の良い理屈は全くの無意味だし、そうした矛盾をも超えて、あの蓮實さんの会見での姿勢には、私の言葉では及ばないような何かが、その語られなかった言葉の背景にあるような気がして、私はただただ畏怖を感じたのである。
蓮實さんは「小説が向こうからやってきた」と語っていたが、きっとそれだけではないだろう。小説が向こうからやってきたとして、それを迎え入れるための準備が、80年という時間の中にあったのではないか。むろん、それは私がただ勝手にそう受け取っているだけではあるが。
著名人の方々の反応(2016/05/17追記)
何人かの方々が蓮實さんの三島賞受賞について反応されていたので、私が気になった範囲で勝手にまとめてみた。
蓮實さんの三島賞受賞記者会見での発言を読んだ。受賞したら絶対いうだろうなあと思っていたことをみんなしゃべっていて、爆笑。「紋切型辞典」のフローベールの研究者だもの、ああいう場所だと正論しかいわないにきまってるよね。きちんと「感情教育」していた蓮實さん、1ミリも変わってない……。
— 高橋源一郎 (@takagengen) 2016年5月17日
だいたい、今回のコメントで騒いだでいる人のほとんどは、蓮実重彦の文章なんてまったく読んでないわけでしょう。だから彼のあの発言が、何十年も繰り返されてきた「芸風」であることも知らないわけで、すべてが茶番。そしてむろん主催者はそんな茶番でももういいやと思っているわけで、それも茶番。
— 東浩紀@来週は沖縄 (@hazuma) 2016年5月17日
「はた迷惑」という言葉には、簡単には同意、調和しない、という不屈さが表れていて、それは、知性の一つの印だと思う。蓮實重彦さんのような頑固さが、メディアで見られなくなって久しいからこそ、新鮮で痛快だった。
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2016年5月16日
昨日の三島賞。僕は他の作品を推していて、『伯爵夫人』には最後まで反対でした。詳しくは来月の『新潮』の選評に書きます。僕の意見は、最後まで理解されませんでした。僕も支持した選考委員の意見には賛同しませんでした。
— 平野啓一郎 (@hiranok) 2016年5月17日
照れてらっしゃるんだと思いますよ。
— 佐々木敦 (@sasakiatsushi) 2016年5月16日
:)
— 阿部和重 (@abekazushige) 2016年5月16日
阿部さんのコメント(顔文字?)は、断定はできないが、きっとこの件に関する反応に違いないと私は解釈している。